ここまで来た中国の医療技術

科学技術

先頃、中国で国家科学技術進歩奨励大会が開かれ、1等賞の一つに完全国産化した MRI が選ばれました。 MRI はいろいろな技術の集大成です。自前で研究開発したのはすごいことです。

とうとうMRIを完全国産化に成功

36Kr.com記事によれば、先頃、中国で国家科学技術進歩奨励大会が開かれ、157の賞のうち21の賞が医療技術に授与されたそうです。そのうちの1等賞の一つに完全国産化した 3.0 T MRI が選ばれました。”T” はテスラで磁界の強さの単位です。最先端の MRI は 7.0 Tも登場してきているので、3.0 T はそれほど強くはありません。しかし、それでも MRI はいろいろな技術を集積した結果作れる代物です。分光器、超電導、交流磁界の送信コイルと受信コイル、人体の水素原子から出てくる微小信号を増幅するアンプなどなど、それらすべての技術を自前で研究開発したところがすごいところです。リニアモーターカーを既に商業運用している国なので、転用できる技術も多いのではないかと思います。

ちなみにこの記事によると、MRI を完全に国産技術だけで作り上げられる国はこれまでアメリカとドイツしかなかったそうです。中国は3番目の国になったわけです。これまでの中国は MRI の純輸入国で、それもあって MRI の普及率は低かったのですが、国内の普及率を引き上げるのに役立つでしょう。その先には MRI の輸出国になることを目指しています。

しかもその偉業を成し遂げたのが民間企業が主体のグループでした。上海联影医疗科技有限公司という企業で、今回民間企業として歴代最高位の賞を受賞したのです。

日本語で「核磁気共鳴画像法」と呼ばれるこの MRI 技術は、水素原子が共鳴する周波数で周期的に強さが変わる磁界を与えて、水素原子が共鳴状態から元の静かな状態に戻っていくときに出す電波をコイルアンテナで受信して3次元の画像を撮るものです。

話が逸れますが、このサイトで紹介している論文で視覚や聴覚に対する刺激に対して脳のどの部分が活動しているかを見えるようにする手段として、脳内の血中酸素濃度を見える化する fMRI (頭の “f” は「機能的」の意味で、英語の “functional” の頭文字です)がよく出てきます。これも MRI の一種です。fMRI はヘモグロビンが酸化されているかどうかを見ています。ヘモグロビンは、酸化されているとかけられた磁界と逆向きに磁化し、酸化されていないと普通の鉄と同じで磁界をかけられたときだけ同じ向きに磁化されます。この違いを測定します。ですので、脳内の血中酸素濃度を見ることができるわけです。

中国が開発中のその他医療技術

他にも心臓と脳の血管疾患に関する技術とガンの早期発見技術が受賞しています。日本と同じで中国でも心臓疾患、脳卒中、ガンは疾患による死亡原因の上位に来ているので関心が高いことを示しています。

ガンの早期発見技術の中には、いわゆるリッキドバイオプシーと呼ばれる少量で済む血液検査がありました。血液中に含まれる肝臓ガン細胞が作るたんぱく質を検出する技術です。肝臓は我慢強い臓器で症状が出る頃には既に手遅れということがあるので、こういう技術で早期発見ができると死ななくて済んだ人が救われることでしょう。

他に静脈注射して投薬する際にナノサイズの薬品を脂質でカプセル化する技術が出ていました。静脈注射ではありませんが、mRNA 型コロナワクチンも細胞に mRNA を送り届けるために、筋肉注射した後に人体内で分解されないように脂質のカプセルに入れて送り届ける必要があります。ナノサイズの薬品を取り扱う場合の共通技術なのではないかと思います。

世界の医療技術の特許出願状況

WIPO (World Intellectual Property Organization/世界知的所有権機関) の統計によると、医療技術に関する世界の特許出願状況は以下のグラフのように推移しています。WIPOから統計データを CSVファイルでダウンロードして、Google スプレッドシートで発明者の出身国別に色分けして現在の公開特許の件数を積み上げ棒グラフにしたものです。

驚くことなかれ。この10年間に中国がものすごい勢いで件数を伸ばして、今やアメリカと肩を並べるところまで来たことが分かります。これらが実際に正式に登録されて特許権として効力を発揮し始めるにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、世界全体の3分の1程度の件数を中国が占めています。

出所:WIPO統計ー医療技術の公開特許件数(発明者出身国別)

スマホやテレビ、冷蔵庫が中国製というご家庭も多いことでしょう。これからは医療機関で検査する際に、中国製の MRI や CT にお世話になる日もそう遠くないのではないでしょうか。

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