ありふれた感染症が実はボケを早める

common infection 科学技術

同居人のように感染したら体の中に居座るウイルスや寄生虫がいます。Alzheimer’s & Dementia に掲載された論文によると、それによって起こされる不快な感染症を「しょうがない」と放置していると、実は認知症を助長してしまうことが分かりました。

ありふれた感染症

今回取り上げる米ジョンホプキンス大学からの論文では、HSV-1、CMV、EBV、VZV、TOXの5種類のウイルスと寄生虫を対象にこれらが認知症と関係あるか否かを調べています。最初の4つがいわゆるヘルペスウイルスと呼ばれるごくありふれたウイルスです。TOXは寄生虫です。

VZVは子どもの頃に水疱瘡を惹き起こした後に急性症状は治まるのですが、その後神経節に潜伏し続けて、初老期になると、再び体の表面まで出てきて、皮膚の一部に帯状に赤い発疹を発生させます。これが帯状疱疹です。私も数年前に帯状疱疹になり、かなり痛い思いをしました。

米国でもこれら5つの感染症はごくありふれたもので、TOXが米国の人口の約1/4程度で、それ以外のヘルペスウイルス4種類はどれも年を取ると9割程度が感染するそうです。今回の被験者は 41歳から97歳までの575名です。これらの被験者の中では、血清中に抗体を持っている陽性率は、EBV(79.3%)、VZV(70.2%)、HSV-1(68.5%)、CMV(67.5%)、TOX(24.7%)でした。

ですので、5種類の感染症に対する抗体のうち2~4種類が陽性の人が全体の84.5%にも達します。ちなみにどれ1つとして陽性ではなかった人はわずか7人、全体の1.2%でした。

特にHSV-1とCMVは認知症に対する影響大

そして、MMSE (Mini Mental State Examination) と呼ばれる認知症テストのスコアと5種類の感染症の抗体陽性との関係をみたところ、特にHSV-1とCMVとで相関が高く、MMSEの成績が悪くなることが分かりました(参考文献1)。

また、抗体が陽性になった感染症数が多いほどMMSEの成績が悪くなる傾向も確認できました。ところが、意外なことに、APOE ε4を持つ被験者は抗体が陽性になった感染症数が多くても、それほどMMSEの成績に響かないことも分かりました。よくAPOE ε4と呼ばれる遺伝子を持っていると、アルツハイマー型認知症に罹りやすいと言われるにも関わらずです。

感染症に対する抗体を作り続けているということは、それに呼応してサイトカインなどの他の免疫系も活性化して、正常な細胞も傷つけてしまう慢性炎症が引き起きていることを示しています。慢性炎症が脳の中でも起こると、免疫系の一員としてアミロイドβも駆り出されて感染症と戦うのですが、その結果睡眠中のお掃除で十分に排泄されないと、脳細胞を傷つけてしまい、認知症になるというメカニズムだと考えられています。

APOE ε4は感染症に対して過剰に免疫反応を発動するので、1つ、2つの感染症に対しては、慢性炎症になりやすいのですが、感染症の数が増えると、どこから反応が頭打ちになると考えられています。これがAPOE ε4を持つ被験者は抗体が陽性になった感染症数が多くても、それほどMMSEの成績に響かない理由とされています。

ではどうすればよいか

あまりにありふれた感染症なので、コロナ禍で定着した3密防止を一生続けたとしても、ちょっとの隙でもあれば、それまでの努力は水の泡になると思います。ここは頭を切り替えて、共生する道を選択するよりないと思います。

体の中にいて潜伏していても増殖しないようにするには、日頃から抗体が出動する前段階の平時の免疫系がつぼみを摘んで回れるように、健康的生活を習慣化することでしょう。これが予防なのだと思います。特に睡眠は脳の掃除に欠かせませんので、睡眠には特に気を使ってよいと思います。

あとは予防接種でしょう。5種類のうちの1つVZVにだけは帯状疱疹ワクチンがありますので、それは接種しておくといいことがあるかも知れません。

[参考文献]

  1. Alexandra M. Wennberg, Brion S. Maher, Jill A. Rabinowitz, Calliope Holingue, W. Ross Felder, Jonathan L. Wells, Cynthia A. Munro, Constantine G. Lyketsos, William W. Eaton, Keenan A. Walker, Nan‐ping Weng, Luigi Ferrucci, Robert Yolken, Adam P. Spira. Association of common infections with cognitive performance in the Baltimore Epidemiologic Catchment Area study follow‐up. Alzheimer’s & Dementia, 2023; DOI: 10.1002/alz.13070

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