今回紹介する論文によると、色鮮やかでポリフェノールがたくさん含まれる野菜や果物、ココアそしてキノコはボケ防止に効果的で、アルコールと人工甘味料(サッカリンとアセスルファムカリウム)は逆にボケるリスクを高めるとのことです。
きっと食べ物に注意しようと思います
今回は Molecular Nutrition & Food Research誌に載ったOpen Research を紹介します。血液採取して測定したバイオマーカーで分かる食べ物と認知症の関係を解き明かした論文です。結論を先に述べると、色鮮やかでポリフェノールがたくさん含まれる野菜や果物、ココアそしてキノコはボケ防止に効果的で、アルコールと人工甘味料(サッカリンとアセスルファムカリウム)は逆にボケるリスクを高めるとのことです。
動物実験ではなく、研究した対象はヒトで、しかも何を食べているか被験者にアンケート調査するのではなく、血液中に含まれる成分を分析して、実際に何を食べているのか分析しています。血液中の成分で認知症になると増える成分も測定して、認知症テストの結果と一致するかも検証しています。被験者のあいまいな記憶に頼らないので、エビデンスに基づいていて信頼性が高いと思います。
さらにフランス南西部とフランス中東部とで地理的に離れたフランスの2つの都市から被験者を募って12年前と今の血液と認知症テストを比較しています。ワインで有名なボルドー市から418人、同じくワインで有名なブルゴーニュ地方にあるディジョン市から424人が参加しました。それなりの規模なので、やはり信頼が置けそうです。
ボルドーで仮説を立てて、ディジョンで答え合わせ
12年前には認知症の傾向が見られなかった人を被験者に選んで、彼らが現在どうなったかという追跡調査の1つです。まずボルドーの被験者から採取した血液を分析して、認知症テストを受けてもらい、彼らの食生活の結果、血中に増えた成分を確認しています。ボルドーの結果では、野菜や果物、ココアそしてキノコは認知症防止の効果がありそうなことが分かりました。
話が少しややこしくなりますが、ストレートに食べたものを消化した結果、野菜や果物、ココアそしてキノコ由来の化学物質が血中に流れるというわけでなく、そこには腸内フローラが深く関わってきます。ヒトが口にして消化した食べ物が腸に届くと、腸内細菌が分解します。 腸内細菌が代謝した後に作られる代謝物が血液に取り込まれて体を駆け回ります。この研究では、その腸内細菌の代謝物である化学物質を分析しています。
腸内細菌ついでにちょっと話が逸れますが、『生活においしくグルテンフリーを取り入れる』の回で紹介した『あなたの体は9割が細菌』(原書名 “10% Human: How Your Body’s Microbes Hold the Key to Health and Happiness“)でも、いかに腸内細菌が大活躍しているか多くの事例が紹介されています。例えば、 大腸は腸内細菌の代謝物である酢酸をエネルギーにして活動しているそうです。そうかと思うと、赤ちゃんがまだ新生児の頃は、お母さんの母乳に含まれる乳酸菌は乳糖を分解する種類なのですが、離乳期に近くなると、今度は食物繊維を分解する種類に変わるのだそうです。一体どうやってお母さんの腸内細菌がおっぱいまで長い旅をするのか、そして赤ちゃんが離乳期になる頃合いをどうやって見計らって、選手交代するのか不思議ですね。
話を戻すと、同じようにディジョンの被験者から 採取した血液を分析して、認知症テストを受けてもらい、彼らの食生活の結果、血中に増えた成分を確認し、ボルドーの結果と一致するか確かめています。その結果、 野菜や果物、ココアそしてキノコは認知症防止の効果があることで一致しました。野菜や果物のポリフェノール由来の成分は認知症リスクを概ね0.9倍弱に下げてくれます。ココアは0.7倍に下げてくれます。キノコは0.9倍です。一方、人工甘味料のサッカリンは 認知症リスクを1.26倍に高め、同じくアセスルファムカリウムも1.12倍にします。アルコールは1.8倍も高めます。脂肪酸も総じてあまりよろしくないようです。オレイン酸やリノール酸がそれぞれ1.12倍、1.19倍です。オメガ3脂肪酸は善玉なのではないかと思われた方もいると思います。残念ながら、この研究ではオメガ3脂肪酸は評価していませんでした。
評価が分かれるコーヒー、赤ワイン、柑橘類
コーヒー、赤ワイン、柑橘類は評価が分かれました。認知症リスクを下げるよい成分が含まれる一方で、悪い成分も含まれるためにそのような結果になるのでしょう。
例えば、コーヒーに含まれるカフェインはボルドーだけの結果を見ると認知症リスクを1.88倍に上げますが、ディジョンで測定されたカフェインを体内で代謝した後の代謝物で見ると逆に0.48倍に下げてくれます。
ワインの産地で世界的に著名な土地で生まれた研究結果なので、赤ワインに対する評価は上げたいところです。しかしそうもいかないようです。老化防止効果で有名なレスベラトロールは、確かにディジョンの結果では認知症リスクを0.7倍に下げる結果になっていますが、赤ワインにはアルコールが含まれるので、行って来いがありそうです。ノンアルコール赤ワインならばリスクを下げてくれるのかもしれません。
柑橘類はジュースで飲むとよくないそうです。ボルドーの結果では、柑橘系ジュースに含まれる成分が認知症リスクを1.74倍にする結果になっています。しかし、本論文の中で引用している別の論文では柑橘系果物丸ごとだとリスクを下げるのだそうです。
賛否両論のこれらについては、今後のさらなる研究で善玉、悪玉どっちなのか決着するのを待ちましょう。
私はというと…
私はということ、毎朝ブロッコリー、ニンジン、セロリ、小松菜、ニンニク、ショウガ、玉ねぎを刻んで電子レンジでチンして温野菜として食べています。果物はアボカドとオレンジにしています。オレンジはジュースにして飲んだりはしていないので、大丈夫であることを願います。ココアは飲みませんが、カカオ豆を毎日4粒かじっています。キノコは干しシイタケを海藻と一緒に水で戻して納豆と和えて食べています。これも毎日の習慣です。アルコールは飲まなくなったし、人工甘味料はそもそも嫌いだったので、入っているものは食べません。
よしよし、12年後もボケずに済みそうです。一人追跡調査してみます。
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